2019年のWestern Statesは好タイムが続出
2019年のWestern States Endurance RunはJim Walmsleyが昨年自ら打ち立てたコースレコードである14時間30分04秒を更新して14時間09分28秒で優勝。2位のJared Hazenも昨年の優勝タイムを上回る14時間26分46秒でフィニッシュ。女子優勝のClare Gallagherの17時間23分25秒は歴代2位のタイム、また女子2位のBrittany Petersonの17時間34分29秒は歴代4位と、非常に速いタイムでの決着となった。
今年の好タイムの重要な要因の一つは気温の低さ。例年暑さへの対応が鍵になるWestern Statesだが、今年の大会中の最高気温27.8℃は史上5番目に低かった。ちなみに昨年は36.7℃で、過去の歴史の中でもかなり暑かった。
気温とランニング・パフォーマンス
気温とタイムには相関がある。下図はマラソンにおいて気温によってどれだけスピードに違いがでるかについて研究した結果だが、最適な気温(6.24℃)で走ったときに比べて、26.24℃の場合には男子で17.74%、女子でも12.43%遅くなっている。
気温によるスピードの低下はランナーのレベルによって異なり、速いランナーではもう少しパフォーマンスの低下は少ない。3.81℃下で2時間41分で走るランナーは、13.81℃では2時間44分と約1.44%のタイムロス、さらに23.81℃では2時間51分と最適な気温に比べて6%ほど余分に時間がかかるというデータがある。
Jim Walmsleyの今年のタイムは10度ほど気温が高かった昨年に比べて約2.42%タイムが向上している。上記の研究と照らすと暑い中でコースレコードを出した昨年の走りは出色であり、また昨年のパフォーマンスからすれば今年のタイムは理にかなっている。
ちなみに昨年・今年ともにトップ10に入ったランナーは男子4人、女子3人。そのうち一人を除いて全員が昨年より今年のほうが良いタイムでフィニッシュしている。
- 男子
- Jim Walmsley :【2019】 14:09:28 (1位)【2018】14:30:04 (1位)
- Mark Hammond:【2019】15:36:12 (5位)【2018】16:08:59 (3位)
- Jeff Browning:【2019】15:55:06 (9位)【2018】16:45:29 (5位)
- Kyle Pietari:【2019】15:56:13 (10位)【2018】16:54:23 (6位)
- 女子
- Camelia Mayfield:【2019】18:13:31 (5位)【2018】19:46:57 (7位)
- Kaytlyn Gerbin:【2019】18:13:33 (6位)【2018】18:40:19 (2位)
- Corrine Malcolm:【2019】20:02:29 (10位)【2018】20:01:06 (9位)
湿度とランニング・パフォーマンス
湿度もランニングのパフォーマンスに大きな影響を与える。下図は横軸が気温、縦軸が湿度、そして表内が体感温度(Apparent Temperature)である。
(こちらのサイトの表を元にmethyloneさんが摂氏に変換)
- 黄色:体感気温32℃〜40.5℃… 暑さによる痙攣や疲労が起こる可能性がある。
- オレンジ:体感気温40.5℃〜54.4℃… 暑さによる痙攣や疲労が起こる可能性が高く、また熱中症になる可能性がある。
- 赤:体感気温54.4℃以上… 熱中症になる可能性が高い。
上記のデータでは、35℃でも湿度0%であれば暑さによる影響は少ないのに対し、湿度が高くなればなるほど、熱中症の危険が増してくることが分かる。
人は走ることによって体温が上昇するが、発汗によって皮膚から水蒸気と一緒に体の熱を逃すことによって過度な体温の上昇を防ごうとする。ところが湿度が高いと体の回りに水蒸気があるため、発汗しても気化せず、体温が上がったままになってしまう。発汗を促そうとして心臓の動きも活発になるが、気化しないため心拍数が高止まりになってしまう。
高気温・高湿度下のトレーニング
高気温あるいは高湿度下では、最適な温度に比べてパフォーマンスが低下する。また心拍数がボトルネックとなる。
筋肉への高負荷を目的としたトレーニングは、上記の理由から高気温・湿度下では最適な効果は得られない。特に湿気が多く気温も高くなりがちな日本では、夏季は室内でのトレーニングのほうが良好なトレーニング効果が得られる可能性が高い。
目標とするレースが高い気温あるいは湿度であることが想定されるのであれば、順化という目的で、類似の環境下でトレーニングすることには意味がある。ただし、先のデータにもあるとおり、暑さによる疲労や熱中症のリスクが高いため、順化は漸進的に行うのが望ましく、また長時間に渡って炎天下でトレーニングを行うことは避けるべきだ。失われた水分やナトリウムをしっかりと補給する必要がある。
水分補給については「喉が乾いたときに飲め」といわれるが、これは必ずしも良い方策とは限らない。ある研究によれば、飲みたいときに飲む場合に比べて、決められたタイミングで失われた水分を定期的に飲むようにトレーニングしたほうが、体温の上昇を防ぐことができるという結果が出ている。
高気温・高湿度下のレース
高気温・高湿度が想定されるレースでは、順化の他、レース前のウォーターローディングによりしっかりと体に水分をためておくことが望ましい。
また、当然のことながら、レース中には失われた水分やナトリウムを補給する必要がある。
心拍数が上がりやすく、またパフォーマンスが出にくいコンデションであり、気候を考慮せずに設定したタイムや通常トレーニング時の心拍数を守ろうとするとオーバーペース、オーバーワークとなる可能性が高い。想定タイムを調整したり、タイムや心拍数ではなく自覚的運動強度(RPE)でペースを調整したほうが良い。
特に湿度が高い場合、体温が下がりにくいため大きなパフォーマンスの低下と熱中症のリスクが懸念される。氷などで体温を下げることはパフォーマンスの向上に寄与するという研究結果がある。
具体的にどの程度の水分を補給すればよいかについては、例えばこちらのサイトなどにガイドラインがある。