9月12〜13日に行われたIMTUF(アイムタフ) 100。Hardrock 100のエントリー資格取得対象にもなっているこのレースのマニュアルにはこう書いてある。
“This is a post-doctoral level ultra race. You should have already learned from all the mistakes a runner can make in the mountains before coming to IMTUF.”
ポスドク・レベルのレース。IMTUFを走るなら、もう山で起こりうる失敗を散々経験してきているはずだよね。
春から夏にかけて軒並みレースが中止に追い込まれていたが、秋に入って久々に名の知れたレースが開催されるとあって、エントリー枠200人程度のレースにも関わらず相当ハイレベルのランナー達が集結した。
Jason Schlarbや2012年のハセツネで鮮烈な走りで優勝したDakota Jonesは日本でも名が知れている。加えてWestern States 100でトップ・テン&HURT 100も他を引き離して優勝したAvery Collins、過去IMTUF 100を含め多くのレースで勝っているRyan Kaiser、Wasatchを二度優勝し今年のHURTも勝っているTrevor Fuchsなど大きな100マイルレースでの優勝経験がある名前が並ぶ。
今年はコロナ禍の影響で一部施設が使えず、通常とは異なる「スーパー・コース」(”Supercourse”)での開催。序盤からテクニカルな山が設定されるなど、例年以上の難コースだ。
加えて例年であれば9月に入ればアイダホの山は冷え込み雪がちらつき始めるが今年は異常な暑さ。さらに西海岸で猛威を奮う山火事の煙が風に乗って入り込み、レース一日目の午後からは煙霧が酷くなり、さらに難易度が高まった。
今回の目標は10位以内。少なくとも先に上げた5人は私より力が上と見積もっておいたほうがよさそうで、その他にも自分が普段どおりに走っても競り合いになりそうなランナーが10人は下らない。リタイアが何人か出ると仮定しても、それほど簡単ではない目標だ。
それに今年は1月のHURTでDNFだった。最低限ここで一本は100マイルを完走しておきたい。
さあレーススタート。思ったよりゆったりとしたペースで、しばらくは先頭グループも視界に入っていた。
序盤10マイルを過ぎ、いきなりコースきっての難所のJughandle Mountain。主催者から「走るな。どうせ走れないけど。」と言われていたセクションだ。山頂付近は大きな岩だらけ。転んで落ちて頭をぶつけることを想像すると怖さも頭をよぎる。こうしたテクニカルな場所は私は圧倒的に遅い。10位前後につけていたが後続に一気に抜かれていっきに20位くらいまで順位を落とした。後ろにいたDakota Jonesも軽快なポールさばきで私を抜いていった。
まだ序盤で残り90マイル近く。自分の目標が上位入賞ならリスクを冒して攻める必要があるが、今回の目標なら慌てず自分のペースでレースを進めるのが得策だろう。
ここからは一つ一つ順位を上げていくゲームだ。速いランナーが多ければ多いほど競い合いになりやすく、ペースについていけなくなったランナーは脱落してくる。
ポールを持たずにスタートしたが、先頭を行くランナーを含めてかなりの割合でポールを使用していた。最初のいくつかの山を走っても上り下りは相当激しく脚への負担が大きい。私も30マイルのエイドステーションからポールを導入することにした。このコースでは、ポールは急登で安定して上ることと、それ以上に下りで脚への負荷を軽減するうえで必須だったように思う。おかげでここからだいぶ楽に進めるようになった。
50キロも行かないうちに落ちてくるランナーが出始め、予想したとおり一人ひとり順調に抜く展開。中盤までにはトップ10圏内に入ってきた。
中盤には10マイル以上、よく知るAnthony Leeと走った。去年Ouray 100で志村さんのペーサーをしていた彼といったら分かる人もいるかも知れない。途中ちょっと無理して彼を引っ張るかたちになってしまい、自分のペースを守れず少し脚を使ってしまった。80マイルを過ぎたあたりからは余裕もなくなってきた。
80マイルのエイドステーション手前ですこしバランス感覚がおかしくなりペースも出にくくなっていたが、エイドステーションで用意していた味噌汁を飲んで再び走り出したら、あきらかに脚色が復活。レース中は水分とジェルの補給はかなり意識していたのでエネルギー切れはなかったものの、逆に水分過多になりナトリウム不足を促していたようだ。
レース終盤はレースディレクターの( いい意味で)意地悪さが如実に現れたコース設定だった。最後から2つ目の山は距離は長くはないもののコース中でもっとも急な登り。そして最高地点2500メートル越えの最大の登りを最後に配置。また最後のセクションには足を濡らさないと渡れない小川を通らされる。ゴール直前は狭い範囲に張り巡らされたトレイルを永遠と思えるほどぐるぐると回らされて方向感覚と距離感を狂わされる。
中盤以降は順位を落とすことなく、最後は9位でフィニッシュ。優勝はJason Schlarb、2位はDakota Jonesと順当な結果となった。
完走したランナー達のGPSが示した距離はどれも107〜108マイル(173キロ前後)。完走率は50%以下。「いつも以上に難易度が高かった」というのが一致した見解だった。
難易度が高く走りごたえがあり、今年の”Supercourse”が本コースでないのがもったいないくらい。ワシントン州の山とは異なる山々も壮観で、満足度の高いレースだった。
レース会場からほど近いMcCallは湖を望む素敵なリゾート地で、レース前後にゆっくりするのも良さそう。一度目の完走は銀色のバックルだが、二度目、三度目はまた違う色のバックルがもらえるそうだから、ぜひまた走りたいと思う。