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レースレポート:IMTUF 100

9月12〜13日に行われたIMTUF(アイムタフ) 100。Hardrock 100のエントリー資格取得対象にもなっているこのレースのマニュアルにはこう書いてある。

“This is a post-doctoral level ultra race. You should have already learned from all the mistakes a runner can make in the mountains before coming to IMTUF.”

ポスドク・レベルのレース。IMTUFを走るなら、もう山で起こりうる失敗を散々経験してきているはずだよね。

春から夏にかけて軒並みレースが中止に追い込まれていたが、秋に入って久々に名の知れたレースが開催されるとあって、エントリー枠200人程度のレースにも関わらず相当ハイレベルのランナー達が集結した。

Jason Schlarbや2012年のハセツネで鮮烈な走りで優勝したDakota Jonesは日本でも名が知れている。加えてWestern States 100でトップ・テン&HURT 100も他を引き離して優勝したAvery Collins、過去IMTUF 100を含め多くのレースで勝っているRyan Kaiser、Wasatchを二度優勝し今年のHURTも勝っているTrevor Fuchsなど大きな100マイルレースでの優勝経験がある名前が並ぶ。

今年はコロナ禍の影響で一部施設が使えず、通常とは異なる「スーパー・コース」(”Supercourse”)での開催。序盤からテクニカルな山が設定されるなど、例年以上の難コースだ。

加えて例年であれば9月に入ればアイダホの山は冷え込み雪がちらつき始めるが今年は異常な暑さ。さらに西海岸で猛威を奮う山火事の煙が風に乗って入り込み、レース一日目の午後からは煙霧が酷くなり、さらに難易度が高まった。

今回の目標は10位以内。少なくとも先に上げた5人は私より力が上と見積もっておいたほうがよさそうで、その他にも自分が普段どおりに走っても競り合いになりそうなランナーが10人は下らない。リタイアが何人か出ると仮定しても、それほど簡単ではない目標だ。

それに今年は1月のHURTでDNFだった。最低限ここで一本は100マイルを完走しておきたい。

さあレーススタート。思ったよりゆったりとしたペースで、しばらくは先頭グループも視界に入っていた。

序盤10マイルを過ぎ、いきなりコースきっての難所のJughandle Mountain。主催者から「走るな。どうせ走れないけど。」と言われていたセクションだ。山頂付近は大きな岩だらけ。転んで落ちて頭をぶつけることを想像すると怖さも頭をよぎる。こうしたテクニカルな場所は私は圧倒的に遅い。10位前後につけていたが後続に一気に抜かれていっきに20位くらいまで順位を落とした。後ろにいたDakota Jonesも軽快なポールさばきで私を抜いていった。

https://youtu.be/Hl_a4eH38TU?t=26

まだ序盤で残り90マイル近く。自分の目標が上位入賞ならリスクを冒して攻める必要があるが、今回の目標なら慌てず自分のペースでレースを進めるのが得策だろう。

ここからは一つ一つ順位を上げていくゲームだ。速いランナーが多ければ多いほど競い合いになりやすく、ペースについていけなくなったランナーは脱落してくる。

ポールを持たずにスタートしたが、先頭を行くランナーを含めてかなりの割合でポールを使用していた。最初のいくつかの山を走っても上り下りは相当激しく脚への負担が大きい。私も30マイルのエイドステーションからポールを導入することにした。このコースでは、ポールは急登で安定して上ることと、それ以上に下りで脚への負荷を軽減するうえで必須だったように思う。おかげでここからだいぶ楽に進めるようになった。

50キロも行かないうちに落ちてくるランナーが出始め、予想したとおり一人ひとり順調に抜く展開。中盤までにはトップ10圏内に入ってきた。

中盤には10マイル以上、よく知るAnthony Leeと走った。去年Ouray 100で志村さんのペーサーをしていた彼といったら分かる人もいるかも知れない。途中ちょっと無理して彼を引っ張るかたちになってしまい、自分のペースを守れず少し脚を使ってしまった。80マイルを過ぎたあたりからは余裕もなくなってきた。

80マイルのエイドステーション手前ですこしバランス感覚がおかしくなりペースも出にくくなっていたが、エイドステーションで用意していた味噌汁を飲んで再び走り出したら、あきらかに脚色が復活。レース中は水分とジェルの補給はかなり意識していたのでエネルギー切れはなかったものの、逆に水分過多になりナトリウム不足を促していたようだ。

レース終盤はレースディレクターの( いい意味で)意地悪さが如実に現れたコース設定だった。最後から2つ目の山は距離は長くはないもののコース中でもっとも急な登り。そして最高地点2500メートル越えの最大の登りを最後に配置。また最後のセクションには足を濡らさないと渡れない小川を通らされる。ゴール直前は狭い範囲に張り巡らされたトレイルを永遠と思えるほどぐるぐると回らされて方向感覚と距離感を狂わされる。

中盤以降は順位を落とすことなく、最後は9位でフィニッシュ。優勝はJason Schlarb、2位はDakota Jonesと順当な結果となった。

完走したランナー達のGPSが示した距離はどれも107〜108マイル(173キロ前後)。完走率は50%以下。「いつも以上に難易度が高かった」というのが一致した見解だった。

https://twitter.com/younggunrun/status/1305333844682223616

難易度が高く走りごたえがあり、今年の”Supercourse”が本コースでないのがもったいないくらい。ワシントン州の山とは異なる山々も壮観で、満足度の高いレースだった。

レース会場からほど近いMcCallは湖を望む素敵なリゾート地で、レース前後にゆっくりするのも良さそう。一度目の完走は銀色のバックルだが、二度目、三度目はまた違う色のバックルがもらえるそうだから、ぜひまた走りたいと思う。

レースレポート: Elkhorn Crest 50

7月25日、オレゴン州東部のBaker Cityで行われたElkhorn Crest 50に参加してきました。

コロナウィルス流行以来アメリカでも人が集まるイベントは軒並み中止となっていましたが、感染予防対策を講じた上でイベントを開催することが許可されるようになってきています。今回のレースでも、人との距離が近くなるスタート・ゴールおよびエイドステーションで鼻と口を覆ったりなど、少しいつもと異なる部分がありましたが、やはりリアルなレースは楽しいです。

© James Holk

距離53マイル(85km)、累積標高差3350メートル、最高地点の標高が2500メートル。コースの大部分は森林限界を超えた山の峰を貫くシングルトラックで、基本は山を縦走しながら、ときおりガツンと急な坂を下りては登り返し、ふたたび縦走を続ける本格的な山岳コースです。昔は金が採掘された山で硬い地質なため、トレイルもスムーズな土というより小さな石がたくさん転がっていて、足の置き場を常に意識しながら走る必要があります。

© James Holk

コロナウィルスの影響で、3月に50キロを走って以降は一日の最長距離が30キロを超えたことはなく、またロード中心でトレイルでのランも近所の公園だけ。レース前の練習量を落として多少のピーキングはしたものの、レースへむけてはコースに合わせた特別なトレーニングはせず、基本はベース・トレーニング中心で臨みました。

まずは久々の長い距離を良い感覚で走り切ることが第一で、レースでの明確なゴールは設けなかったものの、過去の記録を見る限り10時間台で収められればトップ3くらいでフィニッシュできるかなとみていました。

© James Holk

久しく走っていない距離ということと最後まで走り切ることが第一目標だったので、最初から飛ばしてつぶれるリスクは侵さず、スタートからじっくり構えて走っていました。一人猛烈に飛ばす人がいました(結局そのランナーはコースレコードでフィニッシュ)が、その後ろは私を含めて4人くらいの団子状態。傾斜が少なく走れる場所ではゆっくり走っていても余裕をもって団子の中に収まっていられますが、走れないような急登では足の短さもあって歩いているだけで差をつけられてしまいます。やはり私の場合もう少し走れるコースのほうが適性が高いなと思います。

太陽を遮るものがない場所をずっと走るため暑く、ボトルの水のやりくりが大変でした。

© James Holk

途中、片方が崖の場所で、出合頭にマウンテン・ゴートに遭遇。びっくりしたマウンテンゴートが慌てて崖下へと逃げていきました。ここまで接近した距離で見たことはありませんでしたが、その重量感とスピードはなかなかのもの。マウンテン・ゴートに追突されて鋭い角に刺されたり崖下に落とされたりする事故もあるとのことで、今思えばなかなか危ない場面でしたね。

昨日のもう一つのハイライトは、蝶の大群に囲まれながらのラン。何箇所かで群生していて、走っている私にまとわりついてきます。メルヘンの世界ですね。

© James Holk

終始さほどペースを崩すことなく走れましたが、一方でなかなかスピードを上げづらいコースということもあり、余力のわりには後半にペースを上げることもできず、結局10時間20分の4位でフィニッシュ。2位・3位との差は5分ほどなので、やりようによってはもう少し順位を上げられたかなという気もしますが、レースへ向けた準備やフィニッシュタイムなどを考えると、今の段階としてはまずまず走れたほうでしょう。とにもかくにも最後まで走れてホッとしています。

フォア/ミッドフットかヒールストライクか

論点

着地に関してフォアフットやミッドフットが良いか、ヒールストライクが良いかというのは議論できるポイントだ。

フォアフットが言わば「流行り」といえる時期もあった。今でもマラソンで常に上位を占めるアフリカ勢やその他著名なランナーがフォアフットだという理由で、とりあえずフォアフットを勧める向きも多い。

確かにマラソンで常に上位を占めるアフリカのランナーにはフォアフットが多い。ただ、彼らは小さい頃から不整地で走ってきており、バランスを取りやすい姿勢で走る必要があった結果として踵から着地するフォームに落ち着いたという環境的な要因が大きい側面もある。

最近の調査ではエリート・ランナーでもヒールストライクのランナーが多いというデータが複数あり(たとえばこちら)、一概にフォアフットやミッドフットが優れているとは言えないのではないかという見方が多くなってきている。

考察

個人的には、理屈としては長距離になればなるほど(また不整地になるほど)フォアフットやミッドフットのほうがランニング・エコノミーなどの面で優れているが、現実問題としては個人のバックグラウンドや筋肉などの身体的特徴、体の使い方などの要因によってどれが適しているかには個人差があり、かならずしもどれが正解とは言えない、と考えている。

踵から設置するのは、着地する足が体から離れた位置に着地する結果として起きる。前方に着地しながらフォアフットあるいはミドルフットにしようとすると、足首を不自然に伸ばす必要がある。一方、接地が体の重心に近いところで行われれば、自然と足の裏からの着地となり、足裏の中心あるいはつま先から自然と着地する。

エコノミーという観点からは、着地時にブレーキがかからず、スムーズに前進するモメンタムが働くような走り方がよい。そのようなフォームは、重心が高いアップライトな姿勢となり、自然と着地が体の下付近になり、結果としてミッドあるいはフォアフットになる。

一方、足の力で走ろうとすると、前足が前方に伸び、踵から着地する。そこから筋肉によって体を前へと進めていく必要が出てくる。短めの距離から長距離へと移行するランナーの中には、こうした傾向をもつランナーが多いのではないかと推測する。

ただ、最近は厚底が多いランニング・シューズは、踵からの接地に対して力を吸収して、さらに前方への推進を補助してくれる。ツールがフォームを補完してくれるのであれば、使っても良いと思う。

ランニングは全身運動であり、着地だけを見るよりは走り方全体から見たうえで、そこから自分にとって最適な着地なりフォームなりを探っていくと良いと思う。

フォーム:アップライトの姿勢とピッチ

アップライトの姿勢

走る動作では、地面に足が着地した時の反発によって前進する。着地時に体が屈曲すると、地面に対してしっかり力が伝わらず反発力が弱まる。着地時に体が伸びていれば、しっかりと地面に力が伝わり反発力が強まる。アップライトの姿勢を意識して脚や背中が屈曲しすぎないようにすることで、反発力を利用することが出来る。

できるだけ大きなパワーを一気に出力する瞬発系の運動と違い、エンデュランス系の運動では限りあるエネルギーを有効に使う必要がある。軸がブレると力が真っ直ぐに地面に伝わらなくなる。反発力がうまく使えず、ランニング・エコノミーという観点からも不利となる。

意識するポイント

  • 足が体の下あたりに着地することを意識する。前に着地しようとする意識が強すぎると、着地した後に足より前に体を運ぶための無駄な力みが出たり、アップライトの姿勢が保てなくなったりする。一方、良い位置に着地できれば、無駄な力を必要とせずに体を前に進めることが出来、また足を自然な形で後ろに送ることが出来る。
  • 着地時には体が沈みこみすぎないようにする。多少体が沈むことは自然な動きだが、体が沈み込みすぎると反発力が吸収されてしまう。
  • 無理にピッチを広げようとしすぎず、回転数を安定的な範囲で高める。ピッチを広げようとすると、どうしても筋肉を動員した走りになりがちになる。回転数を意識し、効率的に足を回していくことは、無駄なく有効にエネルギーを使うことに繋がる。心肺への負荷という観点からも、エンデュランスでは効率的なフォームが有利である。

具体例:Rob Krarの走り

Rob Krarは身長173センチ程と他の北米のランナーと比較しても決して身長が高くない。

以下の動画を見ると上体がほとんどブレずに、良いリズムを崩さずに走っているのがよくわかる。無駄が少なく、いつまでも足が回転できそうな勢いである。

これだけ姿勢がブレないのには、当然ながら体感の強さが重要だが、姿勢とピッチを見る上ではとてもよいお手本だ。

フォーム:ストライドを広げる

ストライドを改善する前に:
安定したフォームで走るためには、まずはアップライトの姿勢を維持し、体の下に脚を着地して、安定したピッチで走ることが重要。以下に説明する内容は、安定したピッチを基礎として、スピードを改善するためのアプローチである。フォームが安定しない場合は常にアップライトの姿勢と足の着地位置、そして安定したピッチの走りに立ち戻ることが重要である。(なお、アップライトの姿勢とピッチについてはこちらのブログエントリーを参照。)

ピッチとアップライトの姿勢の重要性

走る際のスピードは以下のように表すことが出来る。

スピード = 【回転数】 ✕ 【回転あたりの距離】

同じピッチで走った場合、当然、歩幅が大きなほうが速くなる。しかし無理にストライドを広げようとすると、動きが非効率になり、無駄なエネルギーを消費する。エンデュランス・ランで無駄なエネルギーを消費することは最終的なタイムに大きな影響を及ぼす。

ストライドを広げる前に、まずはアップライトの姿勢を維持し、体の下に着地して、無駄のない効率的なピッチで走ることが重要である。

下図のとおり、アップライトの姿勢を維持して足を体の下に着地したほうが(左)、腰を軸に脚を前に着地する(右)よりも体の軸が上に位置する。脚が長いランナーのほうがストライド面で有利なように、同じ身長でも体全体を使うことができれば、体の軸が下にあるよりも上にある方が有利になる。

ではアップライトの姿勢で、ピッチを保ち効率的な動きを可能な限り維持しながらストライドを広げるためにはどうすればよいか。①上半身②腰③蹴り足の使い方が重要になってくる。

なおフォームは個人差が大きく、最適解は個人によって異なる。以下では可能な限り共通して適用可能な形を例示するが、実際に走ってみてしっくり来ない場合には無理にフォームを変えないこと。

上半身の使い方

アップライトの姿勢とピッチを維持したままストライドを広げるためには、前への推進力をつけることが重要になってくる。

下の動画はKaci Lickteigの走りである。肩の動きに注意して見てもらいたい(39秒から1分10秒まで)。

https://youtu.be/5yhrXcompro?t=39

彼女はかなり小柄だが、肩を前後に運ぶことで、前への推進力を得ている。かなり肩の動きが大きいが、一方で頭の位置や体の軸は大きくブレていない。なお、腕を振ることでも推進力は得られるが、肩よりも体の軸から遠い位置にあるので、振りすぎると軸がブレやすい。

腰の使い方

腰と股関節を上手く使うことでもストライドは広がる。

Clare Gallagherの腰に注目して下の動画を見てもらいたい(11分44秒から12分03秒まで)。脚が着地した後、逆の足が腰から進んで着地し、上半身が伸びているのが分かる。

腰を上手く使って前への推進力にブレーキをかけないことで、頭の姿勢を維持したままストライドを維持することが出来る。

脚の使い方

こちらはLake Sonoma 50で優勝したAnna Mae Flynnの動画(8分22秒〜8分55秒)。蹴り上げが少なくまたあまり屈伸せず、しっかり踏み込んで足が伸びている。

蹴り上げるのではなく、着地した脚を軽く踏み込んだ後に伸ばす感じ。「おしりの下」あたりと「前太もも」の筋肉を使って走るイメージ。

トレーニング

フォームについては、すべてを一緒に変えていくとバランスが崩れるので、段階を踏んで徐々に進めるのが良い。まずはゆっくりとしたペースで動きを確認し、徐々にスピードを上げても形が崩れないようにするのが良い。データでピッチやスピードを確認し、しっくりこないようであれば深追いせず、元に戻ってもう一度安定したピッチから進めること。

Single Leg SquatやSingle Leg Deadlift、Walking Lunges、Jumping Lungesなどのストレングス・トレーニングは、太ももの補強に役に立つ。

エンデュランスにおいては1キロもしくはそれ以上の距離でのインターバル、速筋を強化したい場合には800メートル以下の距離でのインターバルが有効である。

注意点

より大きく太ももを伸ばすことになるため筋肉への負荷が増える。急激に力の入れ方を変えると肉離れのリスクもあるため、スピードを上げる前には十分にウォーミングアップを行い、徐々に進めていくことが重要。

気温・湿度とランニング・パフォーマンス

2019年のWestern Statesは好タイムが続出

2019年のWestern States Endurance RunはJim Walmsleyが昨年自ら打ち立てたコースレコードである14時間30分04秒を更新して14時間09分28秒で優勝。2位のJared Hazenも昨年の優勝タイムを上回る14時間26分46秒でフィニッシュ。女子優勝のClare Gallagherの17時間23分25秒は歴代2位のタイム、また女子2位のBrittany Petersonの17時間34分29秒は歴代4位と、非常に速いタイムでの決着となった。

今年の好タイムの重要な要因の一つは気温の低さ。例年暑さへの対応が鍵になるWestern Statesだが、今年の大会中の最高気温27.8℃は史上5番目に低かった。ちなみに昨年は36.7℃で、過去の歴史の中でもかなり暑かった。

気温とランニング・パフォーマンス

気温とタイムには相関がある。下図はマラソンにおいて気温によってどれだけスピードに違いがでるかについて研究した結果だが、最適な気温(6.24℃)で走ったときに比べて、26.24℃の場合には男子で17.74%、女子でも12.43%遅くなっている。

https://racereadycoaching.com/temperature-affects-running-performance/

気温によるスピードの低下はランナーのレベルによって異なり、速いランナーではもう少しパフォーマンスの低下は少ない。3.81℃下で2時間41分で走るランナーは、13.81℃では2時間44分と約1.44%のタイムロス、さらに23.81℃では2時間51分と最適な気温に比べて6%ほど余分に時間がかかるというデータがある。

Jim Walmsleyの今年のタイムは10度ほど気温が高かった昨年に比べて約2.42%タイムが向上している。上記の研究と照らすと暑い中でコースレコードを出した昨年の走りは出色であり、また昨年のパフォーマンスからすれば今年のタイムは理にかなっている。

ちなみに昨年・今年ともにトップ10に入ったランナーは男子4人、女子3人。そのうち一人を除いて全員が昨年より今年のほうが良いタイムでフィニッシュしている。

  • 男子
    • Jim Walmsley :【2019】 14:09:28 (1位)【2018】14:30:04 (1位)
    • Mark Hammond:【2019】15:36:12 (5位)【2018】16:08:59 (3位)
    • Jeff Browning:【2019】15:55:06 (9位)【2018】16:45:29 (5位)
    • Kyle Pietari:【2019】15:56:13 (10位)【2018】16:54:23 (6位)
  • 女子
    • Camelia Mayfield:【2019】18:13:31 (5位)【2018】19:46:57 (7位)
    • Kaytlyn Gerbin:【2019】18:13:33 (6位)【2018】18:40:19 (2位)
    • Corrine Malcolm:【2019】20:02:29 (10位)【2018】20:01:06 (9位)

湿度とランニング・パフォーマンス

湿度もランニングのパフォーマンスに大きな影響を与える。下図は横軸が気温、縦軸が湿度、そして表内が体感温度(Apparent Temperature)である。

こちらのサイトの表を元にmethyloneさんが摂氏に変換)

  • 黄色:体感気温32℃〜40.5℃… 暑さによる痙攣や疲労が起こる可能性がある。
  • オレンジ:体感気温40.5℃〜54.4℃… 暑さによる痙攣や疲労が起こる可能性が高く、また熱中症になる可能性がある。
  • 赤:体感気温54.4℃以上… 熱中症になる可能性が高い。

上記のデータでは、35℃でも湿度0%であれば暑さによる影響は少ないのに対し、湿度が高くなればなるほど、熱中症の危険が増してくることが分かる。

人は走ることによって体温が上昇するが、発汗によって皮膚から水蒸気と一緒に体の熱を逃すことによって過度な体温の上昇を防ごうとする。ところが湿度が高いと体の回りに水蒸気があるため、発汗しても気化せず、体温が上がったままになってしまう。発汗を促そうとして心臓の動きも活発になるが、気化しないため心拍数が高止まりになってしまう。

高気温・高湿度下のトレーニング

高気温あるいは高湿度下では、最適な温度に比べてパフォーマンスが低下する。また心拍数がボトルネックとなる。

筋肉への高負荷を目的としたトレーニングは、上記の理由から高気温・湿度下では最適な効果は得られない。特に湿気が多く気温も高くなりがちな日本では、夏季は室内でのトレーニングのほうが良好なトレーニング効果が得られる可能性が高い。

目標とするレースが高い気温あるいは湿度であることが想定されるのであれば、順化という目的で、類似の環境下でトレーニングすることには意味がある。ただし、先のデータにもあるとおり、暑さによる疲労や熱中症のリスクが高いため、順化は漸進的に行うのが望ましく、また長時間に渡って炎天下でトレーニングを行うことは避けるべきだ。失われた水分やナトリウムをしっかりと補給する必要がある。

水分補給については「喉が乾いたときに飲め」といわれるが、これは必ずしも良い方策とは限らない。ある研究によれば、飲みたいときに飲む場合に比べて、決められたタイミングで失われた水分を定期的に飲むようにトレーニングしたほうが、体温の上昇を防ぐことができるという結果が出ている。

高気温・高湿度下のレース

高気温・高湿度が想定されるレースでは、順化の他、レース前のウォーターローディングによりしっかりと体に水分をためておくことが望ましい。

また、当然のことながら、レース中には失われた水分やナトリウムを補給する必要がある。

心拍数が上がりやすく、またパフォーマンスが出にくいコンデションであり、気候を考慮せずに設定したタイムや通常トレーニング時の心拍数を守ろうとするとオーバーペース、オーバーワークとなる可能性が高い。想定タイムを調整したり、タイムや心拍数ではなく自覚的運動強度(RPE)でペースを調整したほうが良い。

特に湿度が高い場合、体温が下がりにくいため大きなパフォーマンスの低下と熱中症のリスクが懸念される。氷などで体温を下げることはパフォーマンスの向上に寄与するという研究結果がある。

具体的にどの程度の水分を補給すればよいかについては、例えばこちらのサイトなどにガイドラインがある。

Bighorn 100 レース・レポート

Bighorn 100(開催日:2019年6月14〜15日)

レース前週〜レース週

優先度Bのレースだが、優先度Aのレース同様におおよそ二週間前くらいからテーパリングを開始。ところがレース週に入っても若干太ももに疲労が残る感じ。年齢のせいかどうかはわからないが、すこし疲労の抜けが懸念される。正直、調子がどうなの?ただ、RPEに対するスピードはそれほど悪くはない。

レース前日

レース前日に現地入り。5キロほど軽く走る。ペースはそこまで悪くないが、足が重い。疲労のせいかと思ったが、翌日、レースが始まってしばらくしてから、単に標高のせい(スタート地点で約1300メートル)だと気づく。

折返しとなる山頂に残る雪の影響などで、制限時間が一時間延長、スタート時間が一時間繰り上げの午前9時に変更。またFootbridge(48キロ地点)からは夜の冷え込みに備えてジャケットとロングショーツ、頭にかぶるものとグローブが必携との通達。

天気予報ではスタート後、昼までは晴天、昼過ぎから夜まで雷雨、その後やや回復の予報。(なお、結局レース中の天気はほぼ予報どおり。)レース前の数日は降水がそれほどなかったことと、当日も降水確率50%くらいなのでそれほど大変な状況にはならないだろうと予想しながらも、一応悪くなっても良いだけの準備として、ドロップバックにインナーを入れたり、途中3箇所でサポートしてくれる妻にいろいろ持っておいてもらう。

レース当日

コースはざっくりいうと一つ山を超えて、2つ目の山の頂が折り返し。来た道をもどって最後に5マイルフラットの道を余分に走る感じ。帰りのFootbridgeからBear Campまでの上り(106〜112.6キロ地点)を除いて、私が走れないほどの急勾配はそれほどない。

今年HURT 100で優勝したNate Jaquaなど何人か速いランナーがいるのかはわかっているものの、エントリーリストか公開されていないため他に誰か速いランナーが走るか分からない。対策の立てようもないし、出たとこ勝負。作戦もなし。とりあえず自分のペースで走るのみ。

スタート:金曜9:00AM

スタート時点では晴れて日差しが強い。バスでスタート地点まで連れて行かれた後、しばらく待たされる。4年前は11時スタートで非常に暑かった経験から、妻が日よけの傘をもって来てくれていたため、直射日光を避けることが出来た。

スタート時のシューズは2019年モデルのSalomon Ultra Pro。ポカリスエット500ミリリットル、水500ミリリットル、ジェル6個をサロモンの5リットルパックに持ってスタート。Salomon Ultra Proにしたのは、途中雨の予報があるとはいえ、ある程度は走れる状況だろうという判断から。(結局、レース途中までは走れる状況、レース終盤はドロドロだったもののどのシューズでも対応できる状況ではなく、結果的には間違ってはいなかった。)

レース開始後は、ゆっくりとしたペースで。古いSuuntoで光学式の心拍計がなく、また胸バンドが嫌いなので装着していないので心拍はわからないが、普通に話せるくらいのスピード。100マイルは、レースの半分以上は気持ち良く楽しめるくらいのペースで走るのが良い。(後半は辛くなるのだが、それはしょうがない。)

一人、スタートからかなり速いペースで飛ばすランナー。よっぽどのランナーでなければ確実に途中からペースダウンだろうと思っていたが、結局彼がダントツで優勝。ゴール後に彼がSeth Swanson(UTMB4位など)と判明。どうりで速いわけだ。

スタート後は3番手くらい。その後、最初の大きなエイドステーションとなるDry Fork Ridge(21.5キロ地点)までは登り基調。自分のペースを崩さずに走る。その間、3人に抜かれるが、彼らはスタート後しばらくして先頭が気になってか途中からペースを少し上げた印象。彼らが自分より実力が上ならそれまで、そうでなければ後でそのうち自ずとペースが落ちて追いつくだろうと思って自分のペースを守る。

筋肉の疲れは感じないが、地面へのインパクトのせいで足裏が痛い。そのうち解消することを望みながら走っていたら、30キロを過ぎあたりから気にならなくなった。

金曜11:32AM

クルーアクセス可能なDry Fork Ridgeで妻から水とジェルを受け取って、すぐに出発。エイド滞在時間1分。

そこからBear Camp(42.6キロ地点)まではローリング・ヒル。このあたりから私を抜いていったランナーを少しずつ抜き始める。自分のペースは変えていないので、勝手に落ちてきた感じ。

すこし天気が下り坂。雷音が聞こえるが、遠いので怖くはない。

Bear CampからFootbridge(48キロ地点)までの下りは、例年だと底なし沼のように膝まで沈み、シューズがもってかれて脱げるほどのぬかるみで全く走れないのだが、今年はそこまでぬかるんでいない。ただし、ちょっとした小川を超えたりしているので足は濡れている。

Footbridgeでは4年前のレースの反省から、しっかりソックスとシューズを変える。シューズは2018年モデルのSalomon Ultra Pro。バッグもあらかじめ必携品を入れておいたSalomonに交換。あと、想定どおりのタイムで走れば全く不要だが念の為に小さなヘッドランプも持つ。雨が強くなりそうなのでMontbellのレインジャケットは着用してエイドを出る。エイドの直後で一人抜いて、3番手に。

Footbridgeからの上り。雨脚が弱まり、熱がこもって暑く、レインジャケットを脱ぐ。

その後はしばらく単独走。前のランナーも見えないなか淡々と走る。

ジェルは30分に一個程度。また、走っている最中にいつ摂ったのか分からなくなったら、とりあえずジェルを摂取。摂らないくらいなら摂ったほうがまし。エイドではコーラやチキンスープ、ナッツ類、バナナやビスケットなどを主に摂る。

水分はエイドごとに500ミリリットルのフラスク2つに補給して走る。小便をするときは色を確認。しっかり水分を補給していることと、雨もあってか、薄い黄色で脱水の兆候がないまま終始レースを進められた。

ジェルを摂るタイミングかどうかの用途以外にはほとんど時計は見ず、感覚にたよってペース配分。

Elk Camp(70キロ地点)の数キロ手前で、逆行してくる2位のランナー。コース・ロストした模様で若干頭に血が上っているが当たる場所もない感じ。私の後ろについて正しい方向へと走り出す。この時点で2位。自分のペースは変わっていないが、まもなく、じわじわと彼との差が付き始める。

Elk Campを出て少しして、折り返してきた一位のランナー(Seth Swanson)とすれ違う。足色は良さそう。そこからJawsまでの時間を測ったら40分ほど。ということは一時間以上先頭と差がある計算。こりゃ追いつかないかな。

折返しとなるJaws(77キロ地点)の手前は残雪。今年はアメリカはどこも雪が残っていて、ここも例外ではない。雪の奥は溶けていて、踏むとそのまま踏み抜いて冷たい水で足がびしょびしょ。バランスを崩して顔から雪面に突っ込むことも。流石に走れない。

金曜18:41PM

Jaws。日没は9時頃なのでまだまだ明るい。ここで妻と二度目の遭遇。どうせ折り返し直後にまた雪を超えて足がぬれるのでシューズは交換しなかったものの、ソックスは交換。また、予備のヘッドランプに変えて、しっかりとしたヘッドランプ(Black diamond Icon)とウェストランプ(Ultraspire Lumen 600)を持つ。最近は老眼もあってランプは2つ持ち。まだ明るいのでヘッドランプはバッグに入れて出発。ポテトスープとそうめんでしっかりと補給。エイド滞在時間9分。

いつもの100マイルよりも足の疲労は感じていない。ここまでのところペースとしては間違ってなさそう。

来た道を戻る。4年前に下りで気持ちよく飛ばしすぎたことの反省から、それほど飛ばさずに下る。後続のランナーとすれ違う。「Good Job!」「後ろに虹が出てるよ!」など、ちょっとした言葉を交わしながら下る。シアトルから来ているランナーや、日本人の方々も元気そう。途中でクリッシーがペーサーをやっていてちょっとしたサプライズ。

Footbridge(106キロ地点)の手前からまた雨脚が強くなってきて、ジャケットを着る。遠くに雷光。

Footbridgeのエイドでシューズとソックスを交換している間に、3位のランナーがエイドに入ってきた。私に気づかずにサポートクルーと「2位を追いかけるから早く出るよ」と話しているので、「2位はここにいるよ」と教えてあげた。結局、彼が先に出て、ここで私は3番手。ここからゴールまで順位の変動なし。

FootbridgeからBear Camp(112.6キロ地点)は急な上り。再び雨脚が弱まる。しばらくは木々の中で熱がこもるのでジャケットを脱いだが、途中の尾根は風が抜けて寒く、またすぐ着る羽目に。

Bear Campからは、先程抜かれた2位のランナーのヘッドランプをうっすら見ながら走る。離れずともなかなか近づかない感じ。

Cow Camp(123キロ地点)からDry Fork Ridge(132キロ)までは雨の影響でひどいぬかるみ。昼とは全く異なる様相。上りでは踏み出すとズルズルと滑る感じ。バランスを取るのに一苦労し何度も尻もち。走れるところを探しながら進む。足はまだ残っているものの、多少キツくなってきた。気合を入れる感じで強く息をしながら進む。

土曜3:41AM

Dry Fork Ridgeで再度、妻のサポート。後続とは少なくとも40分は離れているとのこと。あまり時間をかけないよう、ソックス交換&シューズをSalomon Speedcrossに交換し、必要な補給をしてすぐ出発。ほぼ雨は上がっている。エイド滞在時間6分。

ハッハッ、と音に出るような息遣いで走る。このまま3位で終えたいという気持ちから、勝手にちょっと焦りだし、後続が気になって時折後ろを振り向いてしまう。前だけ見ようと思っても、どうしても時々振り返ってしまう。

悪路で強いはずのSpeedcrossでも泥が靴にへばりついて重い。これじゃあどんな靴でもあまり変わらないなという感じ。時々、石でこびりついた泥を削ぎながら進む。

明るくなり始めたLower Sheep Creek(149キロ地点)手前、オフトレイルからジープロードに入る箇所でコースマーキングを見失い、辺りをさまよう。オフ・トレイルをまっすぐ進むのかと思ってルートを探していたが、結局ジープロードに折れるのが正解。10分弱はさまよったか。焦ったが、後続は見えてこない。

150キロ地点からのダダ下りが長く感じる。今から振り返るとまだ足は動いていたように思えるが、走っているときは不安で時々後ろを振り返ってしまう。

日が出て、雨も上がり、暖かくなりはじめた。ジャケットを脱いで残り10キロ。次第に腰が痛くなってきた。ぬかるみでバランスを取り続けていたことが原因か。腰を伸ばすと痛くて、前かがみになってしまう。

最後の数キロはフラットな未舗装路。日差しが暑い。腰の痛みが耐えられないレベルになってきて、立ち止まってはまた走り始める、を繰り返す。

土曜7:38AM

町へと入り、ゴール地点の公園へ。ゴールラインまで数百メートルだが、腰の痛みで何度もスローダウンしながら進む。3位を守って安堵のゴール。結局、後続とは1時間以上の差があった。

考察

景色も雰囲気も良いレース。エイドのアクセスも良いらしく、妻にも好評で、もっと日本から来ればいいのにと言っている。

完走率が53%くらい。山頂の雪で低体温になる人や、日中の暑さで熱中症になる人がいたり。また雪やぬかるみでタイムも普段より1時間は余分にかかるコンディション。今年は対応が難しいタフなレースだったというのが、だいたい一致する見方か。

そんな中、終始自分のペースでレースをし、天候の変化に対しても適切に対応し、レース後も体重が減らないほど補給をし、小便の色も脱水のサインもなし。レース・マネジメント的には概ね適切にできたと思う。順位的にも満足。前太ももの筋肉痛も最小限で、これまでの100マイルでも一番足を残せたレースの一つだと思う。

とにかく最後は腰が痛かった。腰の痛みはHURT 100でも出た症状。対策があるか探る必要がある。

また、終盤に後続を気にしてしまったのは直したいところ。常に前を向いて走りたい。

ゴール設定が正しかったのかはよくわからない。年初の目標設定は、今年3本走る100マイルレースの少なくとも一つで3位以内。実際には2本走っていずれも3位。達成可能だが容易ではないゴールを設定したいところだが、もう少しハードルを上げても良かったのか、どうなのか。